手と思想の職人録 (noteでも読めますhttps://note.com/kurashikku_work)

2026-04-28 02:23:00

本職という言葉があります。

 

職人同士の会話でも、
「本職の大工さん」
「本職のクロス屋さん」
「本職の設備屋さん」
みたいな言い方をよくします。

 

意味は分かりますが、リフォームにおける本職という言葉は、本来は技能に対して使うものではなくて、
扱う領域に対して使う言葉です。

 

自分で言えば、本職は住宅リフォームです。

 

大工だけでもない。
クロスだけでもない。
設備だけでもない。
電気だけでも、水道だけでもない。

 

住宅リフォームという領域を扱う職人です。

 

だから、その領域においては専門でなければならないと思っています。

 

住宅リフォームは、ひとつの職種だけで完結する仕事ではありません。

 

壁を直すにしても、下地が関わる。
床を直すにしても、建具や巾木や家具が関わる。
洗面台を交換するにしても、給水、給湯、排水、内装、電気、下地、寸法、使い勝手が関わる。

 

ひとつひとつは別の職種に見えるかもしれません。

 

でも、現場では全部つながっています。

 

住んでいる人の暮らしも、建物の古さも、予算も、今後の使い方も、全部つながっています。

 

だから、住宅リフォームという領域を本職にするなら、自然と多能工であることが必要になります。

 

これは、いろいろできると便利だよね、という軽い話ではありません。

 

住宅リフォームという仕事の性質として、多能工でなければ見えないものがある、という話です。

 

もちろん、単能工を否定したいわけではありません。

 

新築や大規模現場、分業がきれいに成立する現場では、単能工の力が必要です。

 

同じ作業を高い精度で、速く、安定してこなす力は、それはそれで大事です。

 

ただ、住宅リフォームの現場で「自分の職種以外は分かりません」という働き方を続けるのは、これからかなり厳しくなると思っています。

 

現場はそんなにきれいに分かれていません。

 

ここからここまでは大工。
ここからここまでは設備。
ここからここまでは内装。
ここから先は電気。

 

図面上や見積書上ではそう分けられても、実際の現場では境目の部分ほど問題が起きます。

 

その境目を誰が見るのか。

 

そこを見られるかどうかが、住宅リフォームではかなり重要です。

 

単能工として働くなら、異職種の職人と組んで、チームとして多能工になる必要があります。

 

それはそれで、ひとつの正しい形です。

 

ただ、それもこれからは簡単ではありません。

 

必要な時に、必要な職人が、都合よく集まるとは限らない。

 

固定のチームを雇用して維持するにも、人件費や管理コストがかかる。

 

職人人口も減っていく中で、毎回すべてを分業で回すやり方は、どんどん難しくなっていくと思っています。

 

だから、一人親方として独立してやっていくなら、多能工であることは、もうかなり現実的な必須条件に近いと感じています。

 

特に住宅リフォームで食べていくなら、なおさらです。

 

ひとつの技能だけで勝負するなら、それこそ相当な差別化が必要です。

 

安い。
早い。
上手い。
対応力がある。
段取りも読める。
他職種との絡みも分かる。

 

そこまであって初めて、単能工として成立すると思います。

 

でも実際には、ただ職種名として「本職」と呼ばれているだけで、住宅リフォームの現場全体を見る力があるわけではない職人も少なくありません。

 

逆に、多能工だから浅いとも限りません。

 

たとえば、多能工として20年住宅リフォームをやってきた職人が貼るクロスと、クロス屋として3年目の職人が貼るクロス。

 

どちらが「本職らしい仕事」をするのかは、職種名だけでは判断できません。

 

もちろん、専門職として長く積み上げてきた人の技術には、簡単には届かない領域があります。

 

そこは間違いありません。

 

ただ、住宅リフォームの現場で毎回そこまでの最高難度の技能が必要かというと、そうではありません。

 

現場で求められるのは、必要な品質で、必要な範囲を、きちんと納めることです。

 

過剰な技能よりも、その現場に必要な判断ができること。

 

これがかなり大事です。

 

どこまで壊すのか。
どこまで残すのか。
どこを応急にするのか。
どこはちゃんとやり直すべきなのか。
どの材料なら納まるのか。
どの順番で進めれば、住んでいる人に負担が少ないのか。

 

こういう判断は、ひとつの職種だけ見ていても身につきにくいです。

 

住宅リフォームという領域全体を見ているから分かることがあります。

 

多能工という言葉は、細分化された職種があるから生まれた言葉だと思います。

 

もともとは、もっと自然な働き方だったはずです。

 

昔の大工さんは、今よりもずっと広い範囲を見ていたと思います。

 

建物全体を見て、暮らしを見て、材料を見て、納まりを考える。

 

もちろん時代も工法も制度も違うので、単純に昔に戻ればいいという話ではありません。

 

ただ、本来の職人のあり方としては、ひとつの職種だけに閉じるより、建物と暮らしを広く見る方が自然だと思っています。

 

多能工は新しい働き方というより、ある意味では回帰です。

 

住宅リフォームという仕事においては、むしろ自然な職人の姿に戻っているだけなのかもしれません。

 

これからは、固定の会社組織や雇用だけでなく、現場ごとに信頼できる職人同士が組む形も大事になると思っています。

 

自分はそれを、ギルド型に近い働き方だと考えています。

 

ここで言うギルド型というのは、会社として固定の職人を抱えるのではなく、それぞれが独立した職人として立ちながら、現場ごとに必要な仲間とチームを組む働き方です。

 

固定の雇用ではなく、信頼関係でつながる。

 

現場ごとに、必要な人と組む。

 

その形で仕事を回せる人脈を持っていることも、これからはかなり大事になると思います。

 

ただし、その前提にあるのは、一人ひとりが自分の領域を広げていることです。

 

狭い職種だけに閉じたままでは、ギルド型でも機能しにくい。

 

ある程度広い領域を理解した職人同士が組むから、現場全体を見ながら動ける。

 

だから結局、一人ひとりが多能工化していく流れは避けられないと思っています。

 

多能工でいくか、単能工でいくか。

 

これは単なる働き方の好みではなくなってきています。

 

特に住宅リフォームで独立してやっていくなら、かなり現実的な分かれ道です。

 

単能工として突き抜けるなら、それはそれでいいと思います。

 

ただしその場合は、多能工もできるけれど敢えて一本に絞っているか、誰が見ても分かるくらいの強さが必要です。

 

そうでないなら、自分の職種だけに閉じたままでは、これからの住宅リフォームの現場ではかなり厳しくなる。

 

これは冷たい言い方かもしれませんが、努力不足として見られる時代に入っていくと思っています。

 

住宅リフォームの本職とは何か。

 

自分は、それを職種名ではなく、扱う領域で考えたいです。

 

本職は住宅リフォームです。

 

自分は、そこを本職としてやっているつもりです。

 

そのためには、多能工であることは特別なことではなく、むしろ当たり前のことなんだと思っています。