手と思想の職人録

2026-03-14 17:54:00

現場で「福田さんは何屋なんですか?」と聞かれると、実は少し困ります。

 

監督さんが施主さんにこう紹介することがあります。

 

「クロス屋の福田さんです。」

 

でも別の現場では、

 

「大工の福田さんです。」

 

と紹介されることもあります。

 

そしてその瞬間、
僕はだいたい少しだけ困ります。

 

僕は何屋なんだろう。

自分でもたまに考えます。

 

多能工、と言えば一番近い気がします。
でも多能工と言うと、

 

「色々できるけど専門ほど深くないのでは?」

 

と余計な心配をかけることがあります。

 

だから実務上は、

 

「大工です」

 

と言っておくことが多いです。

 

でもそれも、少しだけ正確ではない気がしています。

 

昔の大工は、今のように細かく職種が分かれていませんでした。

 

家のことはだいたい大工が見て、
必要に応じて職人を呼びながら現場を納めていた時代があります。

 

今はそこが細かく分業化されています。

 

大工
クロス屋
設備屋
電気屋
塗装屋

 

専門の職人がバケツリレーのように現場に入り、
一つの家が出来上がっていきます。

 

それはそれで合理的な仕組みです。

 

ただ、現場にいると
少し違う景色も見えてきます。

 

僕は住宅のリフォームや修繕の現場で、

 

大工
設備
内装
電気
水道
調査
清掃
施工管理

 

こういう仕事を、状況に応じて自分で組み合わせながら対応しています。

 

だから現場では、

 

クロス屋として紹介される日もあれば、
大工として紹介される日もあります。

 

何屋ですか、と聞かれると困る理由は、
たぶんここにあります。

 

ただ、現場にいると
もっと別のことを考えることが多いです。

 

それは、

 

「この現場の問題はどこにあるんだろう」

 

ということです。

ここで少しだけ、前回の記事で書いたことをもう一度書きます。

 

たとえば、

 

「他社で断られた」
「頼める人が見つからない」
「どうやって解決すれば良いかわからない」
「ヤバいことになってる現場なんですが…」

 

そういう相談が、僕のところにはよく来ます。

 

他社施工の是正工事や、
クレーム解決のような依頼も多いです。

 

現場に入ると、

 

設備の問題なのか
施工の問題なのか
建物の構造なのか
それとも別のところに原因があるのか

 

いろいろな可能性を見ていきます。

 

問題の核になっている部分が見えてくる瞬間があります。

 

「ああ、ここが原因だったのか」

 

そう思えた瞬間、
僕の中ではだいたい答えが見えています。

 

ただ、この“核”というのは
設備の不具合とは限りません。

 

実際の現場では、

 

施工不良ではないのにトラブルになっているケースもよくあります。

 

多くの場合、

 

工事前の打ち合わせ不足
関係者の認識の違い
期待値のギャップ

 

こういうところに原因があります。

 

この場合、
いくら丁寧に工事をやり直しても
根本の解決にはならないことがあります。

 

なぜなら、

 

問題は工事ではなく
「認識のズレ」にあるからです。

 

ここを整理して、
関係者の認識を揃えない限り
本当の意味で現場は納まりません。

 

この業界では、
認識の調整が得意な人はそれほど多くありません。

 

というより、
下請け構造の仕事の流れ自体が
認識のズレを生みやすい構造になっています。

 

僕は工事をしながら
認識の調整もするタイプなので、

 

原因さえ見えれば
だいたい解決までの道筋は見えてきます。

 

だから核を捉えた瞬間に、

 

「これでまた解決したな」

 

と思うのです。

 

こういう仕事を続けていると、
現場の構造が少しずつ見えてきます。

 

ここまでは前回の記事でも書いたことです。

 

そしてもう一つ、
現場で必ずぶつかるものがあります。

 

それが

 

時間と予算

 

です。

 

本当は、

 

時間に余裕があり
予算にも余裕があれば

 

もっと良い選択肢を
いくつも提示できる現場は多いと思います。

 

でも現実の現場では
ほとんどの場合、それがありません。

 

なぜなら

 

余裕には費用がかかるからです。

 

見積もりを比較するとき、

 

余裕を見ている会社の見積もりは
どうしても高く見えます。

 

余裕を見ていない会社の見積もりは
安く見えます。

 

多くの場合、
安い方が選ばれます。

 

でも実は、

 

現場では
「何かが起きる」ことの方が普通です。

 

むしろほぼ必ず起きます。

 

その時どうするか。

 

余裕がない現場では、

 

その場で何とか納める方法を
考えることになります。

 

見えない部分で
妥協やごまかしが生まれることもあります。

 

これは誰か一人が悪いわけではありません。

 

職人も
監督も
営業も

 

みんなこの構造の中で
調整しながら仕事をしています。

 

現場が本当に良い形で納まるかどうかは、

 

この調整をしている人の手腕に
大きく左右されます。

 

管理や調整をする人の存在は、
想像以上に重要です。

 

その人件費を削るというのは、
実はかなり大きなリスクを伴います。

 

個人のお客様が
職人や施工業者に直接依頼する場合も、

 

この部分は
少し意識しておいた方がいいかもしれません。

 

調整のプロがいるかどうか。

 

それだけで
現場のリスクはかなり変わります。

 

こういうことを考えながら、
今日も現場で仕事をしています。

 

何屋なんだろう、と
たまに自分でも思います。

 

でも結局、

 

目の前の現場を
ちゃんと納めること。

 

僕の仕事は
たぶんそれなんだと思います。

 

こういう構造の中で、現場は動いています。

 

だから僕は、何屋と呼ばれるかよりも、
目の前の現場をどう納めるかを考えて仕事をしています。

 

また現場の話は、そのうち書くと思います。