手と思想の職人録

2026-03-03 01:30:00

今日は仕事のことを書きます。

 

性分かもしれませんが、僕にとって見積もりは命がけの作業です。

 

若い頃は、

材料費を足して、

手間を計算して、

経費を乗せる。

 

ただの数字の作業だと思っていました。

 

でも続けるうちに気づきました。

 

これは、

自分の時間と、相手の時間をどう交換するかを決める作業だ、と。

 

歳を重ねるごとに、時間を命そのものだと感じるようになったからです。

 

自分の命の時間と、

相手の命の時間を交換する行為。

 

そう捉えるようになってから、

見積もりは軽いものではなくなりました。

 

 

見積もりを書くとき、

頭の中では同時にいくつものことが駆け巡ります。

 

・自分の生活水準

・家族への責任

・相手の生活水準

・お互いが守ろうとしているもの

・見えない背景

・言葉にされない事情

・技術の価値

・時間の価値

・誠実さ

・これまでの関係性とこれからの関係性

・将来の自分

・将来の相手

 

重なっているようで、

一つ一つは微妙に違います。

 

見積もりは、考えれば考えるほど答えが出ません。

深い。

 

 

だからこそ、

軽く扱われるとかなり心が苦しくなります。

 

「あれとこれも、あと何パターンか見積もりください」

「やっぱり一旦白紙にして、別案ください」

 

それ自体は普通のやり取りです。

 

でも僕にとって見積もりは時価です。

 

材料の時価ではなく、

経緯や関係性の時価です。

 

福田にとっての1000円は、

相手にとって10000円かもしれないし、100円かもしれない。

 

では、その関係性の中で

お互いに納得のいく物差しはどう決めるのか。

 

深く熟考した見積もりをするなら、

それがどれだけ難しいことか、想像できると思います。

 

 

命の時間を交換する前に、

僕がどうしても必要だと思っていることがあります。

 

それは、お互いに何を重視している人間なのかを確認すること。

 

はっきり言えば、

相手の命の重みを想像できる人かどうか。

 

これは直接「できますか?」と聞いて

イエスかノーで決まるものではありません。

 

状況を誠意を持って伝え合う中で、

自然と見えてくるものです。

 

だからこの作業を平気でスキップしてしまう関わり方をする人とは、

僕は取引できません。

 

わからないなら、

はっきりと、さようならと言いたい。

 

自分のためにも。

家族のためにも。

そしてその人のためにも。

 

それが、僕にとってのお互いの尊重です。

 

 

初めての問い合わせで、

 

「こういう工事は、おいくらくらいですか?」

 

と聞かれることがあります。

 

僕は答えます。

 

「過去の参考金額はお伝えできます。ただ、まずはお話を聞いて、現場を見ないとわかりません」

 

そこで終わることも多い。

 

金額だけを知りたいなら、

僕である必要はない。

 

一方で、

 

難しい背景のある仕事や、

「どこにも頼めなくて」と言われる仕事。

 

そういう相談から、

仕事を頼まれなかったことはありません。

 

最初から、重みが含まれているからだと思います。

 

 

電話やメール、LINE。

 

そのやり取り一つでも、

何を大切にしている人かは見えてきます。

 

応答するかどうか。

いつ返すか。

どんな言葉で返すか。

 

それもまた、

命の時間をどう扱うかの判断です。

 

 

職人は、だんだんそういう生き物になっていきます。

 

ずっと時間と身体を削ってきた人間は、

自然と重みを持つ。

 

これは職人に限らないと思っています。

 

たとえば、ベテランの母たち。僕のお客様に多い種族です。

 

誰と話をしていても、

僕からは職人の先輩にしか見えません。

 

話さなくても、お宅にお邪魔して、家と母を見ればもう在り方が滲み出ている。

 

守るものを守り続けてきた人と、その歴史が刻まれた家が持つ、オーラみたいなものだと思います。

 

毎日いろんなお宅で仕事をされている方なら、この感覚はスッと共感できるんじゃないでしょうか。

 

 

僕の間口は広いほうだと思います。

 

基本は歓迎スタンス。

 

でも入り口にはゲートがあります。

 

重みを想像できるかどうか。

 

そこだけは譲れない。

 

入れない人もいる。

 

でもそれは否定ではありません。

重視するものが違うだけ。

 

だからこそ、

最初から出会わない努力をする。

 

どちらかが大切なものを

妥協しなければならない状況を作らない。

 

それが僕のやり方です。

 

 

そんな見積もりと、ずっと向き合ってきました。

 

今の見積もりは、

これまでの更新履歴の上にあります。

 

値段をつけるということは、

お互いの時価を擦り合わせるということ。

 

だから簡単には出せない。

そして簡単には曲げない。