手と思想の職人録

2026-02-26 04:49:00

前編で、ゾーンの話を書きました。

 

身体が別の次元に入る感覚。

 

解像度が上がるとか、処理が変わるとか、
そういう説明もできるけど、
正直うまく言えません。

 

ただ、明らかにいつもとは違う。

 

僕はたぶん、昔からアスリート気質でした。

 

限界までやってみたい。
どこまでいけるのか知りたい。

 

スポーツで初めてゾーンに入ったとき、
人間って、こんな出力があるんだ、と驚きました。

 

それと同時に、
無いと思っていた別の次元があることを知りました。

 

この世界には、表面に見えている設定とは別の層があって、
その瞬間、世界の設定が少し書き換えられた感覚がありました。

 

ああ、こんな仕組みだったのかもしれない、と。

 

普段はどこかでブレーキがかかっている感じがあるのに、
そのときだけは、それが外れる。

 

外れるというより、
本来あるものが解放される感じ。

 

それが、職人も、同じだった。

 

これが本当に面白かった。

 

職人も、こんな世界なのか、と。

 

ゾーンは、特別な才能の話ではないと思っています。

 

僕の経験では、必ず積み重ねの先にある。

 

うまくいかない時間。
苦手だなと思いながらやる作業。
思うように動かない身体。

 

正直、もういいかな、と思うこともある。

 

でもやる。

 

やるしかないからやる、というより、
たぶん、やめられないからやる。

 

そして、溜めも、合図もない。

 

本当にない。

 

何かが高まっていく感じもないし、
「そろそろ来るかも」なんてこともない。

 

ただ、手を動かしている。

 

ずっとその延長。

 

で、気づいたら、もう越えている。

 

あれ?と思う間もなく、
上書きされている。

 

前の自分が、少し消えている。

 

一度上書きされると、
もう前には戻れない。

 

できない世界には、戻れない。

 

身体はもうわかっている。

 

それまでの苦しさが、
急に意味を持ち始める。

 

あの時間がなければ、
ここには来られなかったんだな、と。

 

だから僕は、
遠回りとか、無駄とか、
あまり簡単には言えない。

 

それは無駄ではなく、未来への投資であり、
やがて共有の財産になるものだと思っています。

 

自分のためだけじゃない。

 

上書きされた自分は、
次の現場で誰かの役に立つ。

 

職人が少ないと言われる時代に、
一人でも確実に積み上がっていく。

 

そのほうが、結果的に、全員の利益になる。

 

うまく説明できないけど、
そう思っています。

 

苦しさの延長に、
別の次元がある。

 

そしてそこは、思っているより面白い。

 

もしかすると、この構造は仕事だけの話ではないのかもしれません。

 

また少し、考えてみたいと思います